ひと昔前と比べると、動画編集という行為はとても身近なものとなりました。
何百万もかかる高価な機材やPC(パソコン)を用意せずとも、動画編集のために充分な環境をそれほど苦労せず揃えることができます。
そういった環境が当たり前となったのもあってか、「低スペックのPCでも動画編集はできる!」と謳うネット記事をよく見かけるようになりました。
中には、中古ショップで販売されているPCでも動画編集はできると述べている記事もあります。
果たして、それらは事実なのでしょうか。
「低スペックPCでも動画編集は可能」という事実の真偽、そしてリスクやデメリットについて説明していきましょう。
「動画編集」自体は可能、その理由
結論から述べると、「低スペックPCでも動画編集は可能」というのは事実です。
「低スペックPC」をどの程度と想定するかによって結論は多少異なりますが、この記事では家電量販店等で8~10万円程度で販売されているノートPCを想定しています。
現在、その条件に該当するPCの平均的なスペックは以下の通りです。
中古PCの場合、たとえデスクトップであったとしても上記スペックをさらに下回ることもあります。
実際、動画編集に使用するPCについてある方から相談を受けたことがありますが、その方が購入を検討されていたのは10年以上前のSSDすら備わっていないものでした。(フリマアプリにて2万円で出品されていました)
とはいえ、こうした低スペックのPCでも、動画編集ができる可能性自体は決してゼロではありません。
それは、以下のような理由によるものです。
低スペックPC向けの動画編集ソフトもある
現在、非常に多くの動画編集ソフトが流通しています。
有名どころを挙げれば、Adobe社の「PremierePro」や「After Effects」、Appleの「Final Cut Pro」、グラスバレー社の「EDIUS」等があります。
BlackMagic Design社の「Davinci Resolve」等も高く評価されていますね。
上に挙げた動画編集ソフトは高いスペックが要求されるため、低スペックPCの場合は「使わない」という前提で考えた方がよいでしょう。
動画編集ソフトの中には、スペックの高くないPCでの使用を想定したものもたくさんあり、それらを使っていけば大きな問題はありません。
たとえば、CyberLink社の「PowerDirector」は、CPUがIntelCoreiシリーズ相当でメモリが4GB以上であれば必要スペックを満たせます。
この条件であれば、スペックの低いPCであっても十分にクリア可能でしょう。
Wondershare社の「filmora(フィモーラ)」やChengdu Digiarty Software,社の「VideoProc」等、低スペックでも利用可能な動画編集ソフトはほかにもいろいろなものがあります。
目的によってはそこまでのスペックは必要ない
たとえば企業PR動画やアーティストのPVを業務として制作する必要があり、なおかつ高いクオリティーが要求される場合、高スペックのPCを使用すべきです。
しかし、そうでない場合、たとえば「趣味でちょっとしたYouTube向け動画を作りたい」程度の目的であれば、それほど高いPCスペックは必要ありません。
現在はスマホやタブレットでも動画編集可能
また、そもそも論として、現在はスマホやタブレットであっても動画編集ができます。
ハイスペックPCと比べるとさすがに性能面では譲らざるを得ませんが、それでも上位機種であれば撮影した動画に凝った編集がスムーズに行えます。
そう考えれば、低スペックPCで動画編集を行うこと自体もそれほど間違ってはいないと考えられるでしょう。
低スペックPCでの動画編集をおすすめしない理由
ただし、私の個人的な考えとして、低スペックのPCを動画編集用に割り当てるというのはあまりおすすめできません。
それはなぜなのか、理由を説明していきます。
動作が重くなりやすい
低スペックPCの弱点は、率直に言って「余裕がない」こと。
相応のスペックを有したPCであれば、複数の動画データや画像データを読み込んだとしても、それほど影響は出ません。
しかし、低スペックPCの場合、ほんの少々動画や画像を読み込んだだけでも処理が重くなるといったことが発生しやすくなります。
また、エフェクトやアニメーションを多く設定しても、動作が重くなる可能性があります。
低スペックPC向けの動画編集ソフトであれば、そういった処理的な問題を緩和できる可能性もありますが、それでも多量のデータを扱う場合は避けられません。
できないこともたくさん出てくる
低スペックPCの場合、一部の動画編集ソフトでなければ十分に動作させられません。
たとえば、Adobe PremierePro等を最小仕様ぎりぎり、もしくはそれにすら満たないスペックのPCで使用すると、動作に決して無視できない支障が生じます。
画質を落としてもプレビューがまともに起動しない、クラッシュが発生しやすくなる等です。
それなら、低スペック向けの動画編集ソフトを使えばいいという話になるかもしれませんが、それもまた短所のひとつとなります。
Adobe PremiereProやDavinci Resolveは求められるスペックが高い分、それにふさわしい性能や拡張性を有しています。
それらのソフトの特徴である、音声ノイズの軽減やブレ抑制、カラーグレーディングの行いやすさ等は本格的に動画編集を行う気持ちが強ければ強いほど、そのありがたみを実感できるでしょう。
また、モーショングラフィックスを制作しようする場合、高機能な動画編集ソフトの方が断然有利ですが、低スペックPCの場合はそれらが満足に使えません。
モーショングラフィックスの制作において便利なAfterEffectsやFusionをスペック的な都合で利用できないというのは、なかなか手痛いデメリットです。
それに加えて、プラグインが導入しづらいというのも問題のひとつ。
高機能の動画編集ソフトの場合、作業の効率化や独自のエフェクト制作が可能となるプラグインをインストールできます。
しかし、普及率が低く、性能自体がそれほど高くないソフトの場合、配布されているプラグインが少ないという問題があります。
そもそもPC自体のスペックが低いので、高性能なプラグインを導入したくてもできません。
そのため、できることを広げづらくなってしまうというのも痛いところです。
もっと率直にいえば「柔軟性がない」といえます。
さらに、4Kやハイフレームレートの動画データを扱うことにも不向きだといえます。
フルHDのデータですら複数読み込んだだけで処理が重くなるようなPCでは、高解像度、高fpsの動画の編集はかなり困難です。
効率が大幅に下がる
上で語ったように、低スペックPCでの動画編集は「動作が重くなりやすい」「柔軟性がない」といった問題を抱えています。
そして、これらの問題はさらに「効率が悪くなりがち」といった別の問題にもつながるのです。
たとえば、動画編集中に加工した画像が必要となった場合、Photoshop等のソフトを平行して起動し、作業を行うというのは少なからずあります。
場合によっては、AdobePremiereProを使用中にAfterEffectsを立ち上げるといったこともあるでしょう。
しかし、低スペックPCでは、ふたつのソフトを同時に起動する余裕はそれほどありません。
処理が重くなってしまいがちです。
それを防ぐため、どちらか一方のソフトを一旦終了させる必要が生じてきます。
これがなかなか面倒臭く、非効率的です。
また、起動時やデータの読み込み時だけでなく、完成した動画プロジェクトをmp4やmovに書き出す際にも余計な時間がかかってしまいます。
通常であれば数分程度、長くても十数分で書き出しできるような動画が、低スペックPCでは1時間以上かかってしまうこともしばしばです。
こうした、高スペックのPCでは起こりえない余計な手間やロスが積み重なり、ムダな時間となってしまいます。
トラブル発生の可能性が高い
低スペックPCは、安全性の面でもあまり評価できるものではありません。
熱暴走対策が十分でない製品が多く、フリーズやクラッシュ発生のリスクが高くなっています。
そのため、動画編集作業中に突如ソフトが強制終了し、今までの作業がすべて水の泡…となってしまう可能性も少なからずありうるでしょう。
こまめな上書きが必須となりますが、低スペックPCではその上書きにすら余計な時間がかかってしまいがちです。
業務用として信頼性がない
処理速度も遅く、動作も不安定なPCを仕事用に使うというのは、かなりリスクがあるように思えます。
自分が想定した以上の作業時間がかかってしまうかもしれませんし、作業中のフリーズによってデータが飛んでしまうかもしれません。
製造されてからある程度年数が経過している中古のPCであれば、そのリスクはより大きくなります。
そのようなトラブルが起きて納期に遅れてしまったとしても、クライアントに対して「PCが古かったせいだ」という弁明は許されません。
精神的な消耗が大きい
本来であればスムーズに進む作業で不必要な時間が発生するというのは、なんともイライラさせられるものです。
それに加え、予期せぬフリーズが頻発するようなPCを使い続けることは、ストレスが溜まる原因にもなりえます。
ストレスの蓄積は百害あって一利なし。
精神的健康に悪影響を及ぼし、作業効率も質も悪化させてしまいます。
動画編集用PC選びの際に注意したいポイント
以上のような理由から、動画編集用のPCに低スペックなものを選ぶことはおすすめできません。
それでは、動画編集のためのPC選びはどのようなポイントに気を付けて選べばよいのでしょうか。
この項目で解説していきます。
用途をはっきり決めておく
動画編集と一口にいっても、「どの程度」の動画を編集するかで選ぶべきPCはかなり異なってきます。
趣味として、ハンディカメラやスマホで撮影した動画をかんたんに切り貼りしたいだけならば、それほどスペックの高くないPCでも問題ありません。
しかし、本格的な映像制作を視野に入れ、サイズの重いデータを豊富に扱うつもりであれば、多少予算を上乗せしてでもスペックの高いPCを購入するようにしましょう。
趣味としての購入であったとしても、3Dやモーショングラフィックス制作を楽しみたいのであればこれもまた同様です。
中古PC購入の場合は十分な注意を
中古ショップは、安価でそれなりのスペックを持つPCを購入できるという点が非常に魅力的です。
しかし、安全性や耐久性の面で不安要素を抱えているというのも事実。
トラブル発生のリスクを少しでも減らしたいのであれば、多少価格が高くと評判のよいショップでの購入をおすすめします。
メンテナンスに抜かりがなく、保証制度もしっかりしている店舗であれば、信頼して使い続けることができるでしょう。
逆に、いくら価格が安くとも、目に見えてメンテナンスに手を抜いていることがわかるような店舗は絶対に避けるべきです。
まとめ:動画編集においてPCスペックは軽視できない
動画編集はPCに大きな負担をかける作業です。
動画というものが身近になった現在では忘れてしまいがちですが、PCにとっては重労働。
スペックが不十分なPCでは、処理落ちやフリーズ、エラーを繰り返し、満足に編集を行えないことも多々あります。
がっつり動画編集を行いたいのであれば、相応のスペックを持ったPCを購入しましょう。